茶の湯釜 ・ 茶釜
茶席で亭主の代役をつとめる茶の湯釜は「わび、さび」という、極めて日本的な特色をもつ、鉄の芸術であるといわれています。茶人の趣味や趣向により、その時代の鋳物師、釜師達は、さまざまな姿、文様、肌合いの釜を生み出してきました。大陸から渡来した湯釜に起源を持ち、禅宗の影響で喫茶専用の釜となり、室町から桃山時代にかけて茶道が成立すると、茶道の美と精神を表現する茶道具として用いられるようになりました。
芦屋釜
室町時代に筑前芦屋(福岡県遠賀郡芦屋町)で作られた釜を特に芦屋釜と呼ばれ、その形は真形(しんなり)で、鐶付(かんつき)には鬼面を用い、鋳肌は滑らかで、ヘラ押しによる文様が鋳出されているのが特徴です。戦国武将の大内氏の庇護を受け、桃山時代以降は各地に分派しました。芦屋釜として現在8点が国の重要文化財に指定されています。
父 一圭は、芦屋釜の研究に熱心に取り組み、優美なヘラ押しを習得し、数々の優品を生み出しました。
材料 ・ 道具
和銑 (わずく)
和銑は、日本古来のたたら製鉄によって山砂鉄と木炭から作られた銑鉄です
鉄鉱石と石炭から作る洋銑に比べ、純度が高く、腐食に強い特性を持っていますが
一般的な鋳鉄よりも、鋳造が難しいといわれています
当工房では島根県奥出雲町の日刀保たたらの鉄を使用させていただいています
鋳物土・真土 (まね)
鋳込みを終えた鋳型は砕かれ、篩(ふるい)を通して、粒度をそろえ、
再び、粘土を水で溶いた埴汁(はじろ)と合わせて、鋳型作りに使います
篩(ふるい)は、目が粗いものは鉄線で、細かいものは真鍮線で、できており
粗いものから「ケンド」「アラブリ」「シンチュウ」「ケブリ」と呼び、使い分けています
初代は「土一升、金一升」と言って、使い込んだ土を貴び、
二代は鋳造時のガス抜けを良くするために川砂を加えて使いました
生漆 (きうるし)
漆の木から採れる天然樹脂で、比較的熱にも強く、釜を直接炭火であぶりながら
弁柄や煤を加えた漆を焼き付け、釜をさびから守り、色合いを調えます
当工房では天然の生漆を使用しています
吉野紙
吉野紙は、漆を濾すときに用いられる薄い和紙で、繊維が長く、水にも強いため、文様付けのヘラ押しに適しています
下絵を墨で写し取り、裏返して鋳型に水で貼り付け、ヘラ押しを行います
制作工程
1木型
2真土
鋳込みを終えた鋳型は砕かれ、篩(ふるい)を通して、粒度をそろえ
粘土を水で溶いた埴汁(はじろ)と合わせて、再び鋳型作りに使います
初代は「土一升、金一升」と言って、使い込んだ土を貴び
二代は鋳造時のガス抜けを良くするために川砂を加えて使いました
3型挽き
4箆押し
5鐶付
釜を上げ下ろしするときに釜鐶を通す鐶付には、多様な意匠が用いられます
まず原型となる抜き種を粘土で作り、素焼きし
次に抜き種に油を塗り、粘土をかぶせて型を抜き、炭火でしっかり素焼きします
素焼きした型を慎重に鋳型に埋け込みます
6肌打
7焼成
8中子
素焼きした鋳型に釜の厚みの目安となる湿した厚紙を置き、中子土を込めて、中子(なかご)と呼ぶ、内型を作ります
鋳造時に発生したガスを排出する通気性が成功の要です
乾燥させた上部と下部の中子を濃い埴汁(ハジロ)で、ずれないように接着し、中子を一つに合わせます
釜の厚みの目安となる厚紙を取り除き、残りを削りヘラで
厚みが上部は2ミリ、底部は3ミリになるよう削り、表面を整えます
削り残すと釜に穴が開き、削り過ぎると出来上がった釜が重くなるので細心の注意を払います
最後にクロミと呼ぶ、水で溶いた木炭粉を塗り、乾燥させて、中子が完成します
9吹き
鋳込み当日、鋳型を再度、炭火で完全に乾燥させ、煤を吹き付け、型を組み立てます
溶けた鉄を流し込むとき、中子が浮かないように小さな鉄片の型持ちを置き、
はっかいと呼ぶ、締め金具で上下の鋳型を固定します
坩堝炉で熔解した和銑を速やかに鋳込みます
鋳型を傾けて余分な湯を受け杓に移し、湯口を整えます
10仕上げ
吹きの翌日、祈る気持ちで鋳型を割って釜を取り出します
荒仕上げの後、耐火レンガで釜を囲み、炭火でじっくり焼き抜きます
銀色の生々しい釜肌が酸化被膜に覆われ、さび難くなります
様々な工具を使って釜肌を整え、釜鳴りを生み出す鳴り金を選び、漆で取り付けます
稲の籾を取り除いた穂先を束にして作る漆刷毛で、漆を焼き付けます
釜の口の大きさに合わせて唐銅蓋を準備します
蓋裏をろくろで削り、厚みを調節し、
炭砥ぎした蓋の裏に生漆を薄く引き、ばんばを燃やした炎に、くぐらせて、艶のある漆黒に仕上げます
蓋の表は弁柄で色を調えた色漆で着色し、オハグロで艶を出します
湯を沸かして、釜鳴りを試し聞きし、水漏れ、さび、漆の匂いがないことを確かめ
ようやく完成します
しまい方
長くお使いいただくには、茶事の後、炉の残り火に釜をかけて十分に乾かしていただくのが一番です。この時、やや釜を傾けて乾かすのがコツです。炭と違って火のおちない電熱式を使われる方は、空だきにはくれぐれも、ご注意下さい。また夏の炎天下に釜をさらすと、素手では触れないほど熱くなり、湿気を取るには最適です。そのまま何も包まずに箱に入れて、しまうのがいいようです。